第2章 学歴税(マトリクス累進)を導入せよ!

2−6 産業・技術の空洞化

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 日本を蝕んでいるのは「ガクレキ封建体制」だけではない。 産業・技術の空洞化、海外移転という重大な問題がある。 だが実は、この問題も「ガクレキ封建体制」と裏で繋がっているのである。
その事について詳しく述べよう。
 ここでは少し変わった切り口で空洞化の問題について述べるが、その前に私の実体験を紹介したい。 私はかつて典型的な年功序列の大企業に勤め、そこでコンピュータプログラマをしていたが、ある時、年寄りが私にこう言った。 「コンピュータプログラマなんてインド人や中国人でも出来るような価値の低い『下流の仕事』だ。 そんな仕事をしているヤツは給料泥棒だ!」

一般論としては、平社員よりも管理者の方が偉いというのは正しいが「現場や技術が分かった上で管理する」のが大前提である。 ところが現実に目を移すと、何も分かっていなくて形式的に管理している年寄りのなんと多いことか? 私を「給料泥棒」呼ばわりしたその年寄り(実は年下の課長に使われている自称課長見習いの男)は「オレは技術の事は分からないから管理する」なんて公言する始末で(技術が分からなくて管理できるわけがないだろ!)給料泥棒はおまえの方だと言いたいところだが、そのような体質・制度の会社だからどうしようもなかった。 「プログラマなんて下流=下っ端」「管理している年寄りが一番エライ」という価値観の会社だったのだ。 そうなってしまった責任は、経営陣だけでなく労働組合にもある。 組合もグルなのだ。 要するに年寄りに実体のない肩書を与え、形式的に「管理業務」をさせることで、崩壊しつつある年功序列賃金を実質的に維持しようというわけである。

 さて空洞化というと、製造業の海外移転がよく話題になるが、実はIT業界ではもっと強烈な空洞化が進んでいる。 インドの数学教育は進んでいるとか、日本のゆとり教育はダメだとか言う以前に、そもそも若者はプログラマにはなりたがらないし、親だって息子をプログラマにはしたがらない。
なぜならコンピュータプログラマは、先に紹介した私の例でもわかるように、年功序列の日本社会では典型的「下流」だからである。
 職業そのものが「下流」と位置づけられ、絶対に出世出来ないように抑えられている。
年功序列の大企業では、プログラマなんてものは「インド人や中国人にやらせておけばよい価値の低い下流の仕事」と相場が決まっている、あくまでも「管理している年寄りが一番エライ」というわけである。 インド人や中国人にとって、プログラマはエリートだが、それは単に為替相場の関係でそうなっているだけであり、実際はプログラマなんてエリートでも何でもない。 派遣のそのまた派遣、IT土方である(日本のIT業界は建設業界によく例えられる)。

 コンピュータプログラマでさえ下流なのだから、製造現場とか、技術者とか、ものづくりなんて間違いなく「下流」だ。 だから若者は「ものづくり」なんて絶対やろうとはしないだろう。 これはまさに「職業の空洞化」なのだ。 このままでは日本という国は間違いなく衰退する。
 学力低下なんて実は関係ない。 私のオヤジは尋常小学校しか出ていない。 昔の人は中学・高校どころか、小学校しか出ていない人も多いが、それでも社会はちゃんと成り立って来た。
問題は学力低下ではなく、空洞化によって、優秀な人間が「ものづくり」に向かわず、株やギャンブルなど、よからぬ方向に行ってしまうことだ。 空洞化の原因は高すぎる賃金にある。 さらに突き詰めると、年功序列賃金や毎年繰り返される春闘に行き当たる。 そしてその背景には、かさむ教育費、親のすねをかじって大学に行くガクレキ封建体制=学歴差別がある。

 空洞化は学力低下によって起こるのではなく、学歴差別によって起こる。 出現した新たなカースト=ガクレキ、その差別を恐れるあまり、猫も杓子も大学を目指し、教育コストが増大し賃金が高騰し、それで空洞化が起こる。
 学力低下なんて騒いでも、そもそも人間は日常生活で必要としないものは覚えようとしないし、覚えても忘れるものである。 逆に日常生活や仕事で必要なものは、たちどころに覚え、バリバリ使いこなすものだ。 すべての人間が学者になれるわけではないし、すべての人間が高度な学問知識を必要としているわけではない。 大人だってすべての漢字が書けるわけではないし、パソコン・ワープロが普及すれば読めても書けない字も多くなり、総理大臣だって読めない漢字があるくらいだ。

 空洞化は高学歴化による教育コスト増大によって起こる。 「年功序列のオヤジが何人もの息子を大学に行かせる=家父長制度・ガクレキ封建体制」と、それを支えて来た「年功序列=高すぎる賃金」が重いツケを残し、国を滅ぼすのである。
 高学歴化による「教育コストの増大」「賃金の高騰」は、経済に重大な影響を与え「産業・技術の空洞化」「海外移転」を加速し、これにうまく対応できないと国を滅ぼすことになる。
空洞化・海外移転が起これば「ものづくり」「価値の低い下流下請けの仕事」「外国人の仕事」になってしまうから、若者は技術に触れる機会を失う。 これからは、見栄を張り、背伸びして高い賃金を得るよりも、低賃金でも幸せに暮らせる「真に豊かな社会」を築く事が重要なのだ。

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